水道水とオゾン水での洗浄、超音波洗浄、煮沸によるイチゴからの16種類の残留農薬の除去
イチゴは健康食品としてなくてはならないものです。まず、ミネラルとビタミンの宝庫であるにも関わらず非常に低カロリー(32カロリー/100g)であり、ポリフェノールの仲間であるアントシアニンとエラグ酸を多く含んでいます。
イチゴは健康食品としてなくてはならないものです。
まず、ミネラルとビタミンの宝庫であるにも関わらず非常に低カロリー(32カロリー/100g)であり、ポリフェノールの仲間であるアントシアニンとエラグ酸を多く含んでいます。
イチゴの結実期間(受粉後40~50日)は短く、この期間に合わせて細菌感染や害虫の被害を受けます。
イチゴから残留農薬を排除する決定的な方法は見出されていませんが(Kim&Huat、2010;Angioniら、2004)、オゾン処理を始め、超音波処理や洗浄などのいくつかの試みがなされてきました。(Shabeerら、2015;Kentish&Feng,2014;Kaushikら、2009)
では、残留農薬は人の健康にどんな影響があるのでしょうか?
このため本研究では、イチゴ栽培で使われ、イチゴに残留する可能性のある農薬の量をできる限り少なくするための手段を見出すことを目的として行われました。
このために、生のイチゴに含まれる16種類の農薬(10種類の殺菌剤と6種類の殺虫剤)の残留レベルに対する水道水とオゾン水での洗浄、超音波洗浄、沸騰の影響をさまざまな処理時間(1、2、5分)で調査しました。これらの農薬の分析はガスクロマトグラフィーを使用して行われました。
材料および方法
農薬散布用のイチゴサンプルは、ポーランド北東部の実験場で、無農薬栽培された品種が使われました。
実験は、約90㎡ある圃場の中を6㎡ごとの小区画に区分し、区画ごとに以下の殺菌剤および殺虫剤を散布しました。
殺菌剤としては、
ボスカリド(商品名カンタス);ブピリメート(同上、ニムロッド250 EC);シプロジニル(シプロジニル);フェンヘキサミド(Teldor 500 SC);フルジオキソニル(Switch 62.5 WG);フォルペット(フォルパン80 WG);イプロジオン(Rovral Aquaflo 500 SC); ピラクロストロビン(Signum 33 WG);テトラコナゾール(Domark 100 EC);トリフロキシストロビン(Zato 50 WG)が、殺菌剤としては、アセタミプリド(モスピラン20 SP);アルファ-シペルメトリン(Fastac 100 EC);クロルピリホス(Dursban 480 EC);デルタメトリン(Decis 2.5 EC);ラムダシハロトリン(Karate Zeon 050 CS);ピリミカーブ(Pirimor 500 WG)が使われました。
これらの農薬を、推奨容量(ポーランド農業省ホームページ)の2倍の濃度で、散布量58.4L/㎡でイチゴに散布。
イチゴサンプルは、PPP*処理後に10㎏を収穫してポリエチレン袋に詰め、冷蔵庫内で保管するか、収穫後のイチゴをブレンダーで均質化し、凍結保存しました。
PPP*(植物保護製品):害虫や雑草から作物を守るための農薬
実地試験
対象サンプル
サンプル用の無農薬栽培イチゴについて、含まれる農薬の初期濃度を測定しました。
残留農薬除去操作
水道水洗:200gのサンプルを、1Lの塩素化水道水(0.1mgCL2/L, 20℃)中に、それぞれ1、2、5分間浸漬しました。
オゾン水洗:オゾンは、GL-2186オゾンジェネレーター(WRC Multiozon、ポーランド)を用いて、1L/minの流量で生成(最大1mg O₃/Lの含有量)。このオゾン水中に、200gのサンプルをそれぞれ1,2,5分間浸漬しました。
超音波洗浄:超音波洗浄器には、ポーランド製のPolsonic Sonic 6(周波数40kHz、出力2 power×240Wピーク/周期)を用いました。200gのサンプルを超音波洗浄器中に入れた1Lの水道水でそれぞれ1、2、5分間処理しました。
沸騰処理:200gのサンプルをステンレスバスケットに入れ、1Lの沸騰水(100℃)中にそれぞれ1、2、5分間浸漬しました。
サンプルの抽出方法
サンプルは、マトリックス固相分散法*により調整し(Łozowickaら、2009)、最終抽出物はガスクロマトグラフィー分析に供されています。
マトリックス固相分散法*:特定成分と結合する固相(固体)の物質を食品成分などと混合し、その後、アルコール類などの有機溶媒で溶出して、食品中の含有成分を分析する方法(甲斐ら,1996)
結果と考察
回収研究結果
全てのサンプルについて、回収試験の結果は、欧州委員会(2014SANCO/12571/2013)によって確立された残留農薬分析の検証および品質管理基準(European Commission,2015)に従って許容可能であり、平均回収率は78.5から101.0%の範囲でした。
処理効果
未処理サンプル中の個々の殺虫剤残留量と、処理時間1、2、および5分間での経時的な殺虫剤残留量変化が明らかにされました。数値は、水道水洗浄、オゾン水洗浄、超音波洗浄、煮沸のそれぞれの処理ごとに、農薬濃度(mg/kg)とPF*で示されています。PF*(加工係数):同一の農産物に含まれる農薬について、未加工の生の野菜中の農薬含有量と加工野菜中の農薬含有量を比較した係数。加工処理によって農薬含有量が減ればPF値は低くなる。(内閣府食品安全委員会、2016)
その結果、時間を5分に増やすと、ほぼ全ての農薬のレベルが徐々に低下することが確認されました。
調査した農薬のうち、3つの殺虫剤が沸騰プロセス後に1を超えるPFを示したほかは、PFは1未満であり、加工処理が殺菌剤および殺虫剤残留物の減少に寄与することが明らかになりました。
水道水での洗浄効果
16種類の殺虫剤中の水道水での洗浄効果は、5分間の処理時間で最も大きいものでした。殺虫剤の中で最も大きな洗浄効果を得られたのはクロルピリホスで、無洗浄サンプルと比較して68.1%の減少効果(PF=0.32)が認められました。
次いで、アセタミプリド,フェンヘキサミドのPF=0.43、シプロジニル,フルジオキソニル,アルファ-シペルメトリンなどで大きな効果が認められました。
このように、水道水で洗浄すると、3種類の殺菌剤と3種類の殺虫剤の濃度が大幅に低下しました(50%以上)。これらのデータは、生のキュウリで実施された他の研究結果(Liangら、2012)と一致しています。
これまでの研究から、水に溶け込みやすい農薬は水洗浄により簡単に除去できるとされています(Kongら、2012;Zhaoら、2014)。この研究でも、水に溶けやすいアセタミプリドのPFは0.43と、水に溶けにくいデルタメトリンのPF=0.73よりも低く、より除去されやすいことが示されました。
一方、効果の低かったのは、ブピリメートでPF=0.80、テトラコナゾール,デルタメトリン,ピリミカーブがPF=0.73-0.79でした。このうち、ブピリメートやピリミカルブなどの農薬は、水に溶けやすいにもかかわらず、それぞれPF=0.80とPF=0.79を示しました。これは、これらの農薬の噴霧後のイチゴ果実での移動状態に関係するものかもしれないと考察されています。
オゾン水での洗浄の効果
画像は高濃度オゾン水を生成できる「オゾンバスター」
16種類の農薬中のオゾン水での洗浄効果は、一番長い5分間の処理時間で最も大きいものでした。オゾン(O₃)は、広範囲の微生物に対する最も強力な消毒剤の1つであり、果物や野菜から残留農薬を除去し、食品の安全性に懸念のある微生物を制御するのに最も適していると考えられています。(Gablerら,2001)
本研究でのオゾン水処理の残留農薬除去効果は、クロルピリホスに対して最も強力で、75.1%(PF=0.25)の減少が認められました。そのほか、ボスカリドとアセタミプリドに対して、PF=0.37という強い効果が発揮されました。その一方、テトラコナゾールの36.1%(PF=0.64)を始め、ブピリメート,イプロジオン,トリフロキシストロビン,ラムダシハロトリンなどでは、はっきりとした効果が認められませんでした。
このように、オゾン水で洗浄した場合にも、塩素水での場合と同様にクロルピリホスで最大の効果が認められました。この農薬は、植物体と接触した部分だけが反応して、植物体の全身に運ばれて反応するタイプの全身性殺虫剤ではありません。(非全身性殺虫剤)
それに対して、テトラコナゾールやブピリメートなどの全身性薬剤は、植物に噴霧するとイチゴの深い組織中にまで浸透して作用するため、オゾン水での除去には困難が伴うことが分かりました。
16種類の農薬に対するオゾン水での除染処理を総括すると、オゾン水の方が水道水よりより優れた除染効果を生むことが明らかになりました。この結果は、Chenら(2013)による、野菜をオゾンで処理すると除去効率が向上したという報告を支持するものです。
オゾンのこの強い効果は、オゾンが発生する、残留農薬などの有機分子の分解に力を発揮するヒドロキシラジカルの力によるものと考えられます。(Sumikuraら、2007;Takahashiら、2003)
また、オゾンは、テトラコナゾールやトリフロキシストロビンのような大きな分子の農薬よりも、ボスカリドやアセタミプリドのようなやや小さな分子の農薬の方により強く反応することも明らかになりました。
超音波洗浄の効果
16種類の殺虫剤中の水道水での洗浄効果は、5分間の処理時間で最も大きいものでした。
農薬全体を通してみると、農薬除去効果は、超音波洗浄処理を行った場合に最も強力であることが示されました。他の処理法と比べて、超音波洗浄による農薬除去効果が顕著で、アルファ-シペルメトリンに対しては91.2%(PF=0.09)の削減効果が認められ、ピラクロストロビン(89.4%)、テトラコナゾール(84.5%)、クロルピリホス(79.1%)についても、それぞれPF=0.11、0.15、0.21で、70%を超える高い減少が見られました。PFはすべての農薬に対して0.55未満でした。比較的効果が小さかったのは殺菌剤のフェンヘキサミドでした。
超音波洗浄による大きな残留農薬除去効果は、この処理により、液体中に多くの小さな気泡が作られたためと考えられます。これらの気泡は大きくなり、定期的に激しく発生し、衝撃波の形で機械的エネルギーを生成してイチゴ表面の非常に小さな細孔内にも入り込んで、付着する農薬の除去に効力を発揮したと考えられます。
超音波洗浄はこれまでほとんど研究されていませんが、この結果は、今後、超音波洗浄を農作物からの農薬除去の一つの選択肢として研究する価値があることを示唆しています。
沸騰処理の影響
芽胞を形成する納豆菌などを除く大半の細菌は100℃までの加熱で死滅します。
このため沸騰は、食品を滅菌して調理する有効な方法であり、イチゴではジャムを作る際によく使われます。
この研究で実験対象となった16種類の農薬のほとんどが、煮沸処理によって大幅に削減されました。洗浄効果は処理時間に比例して大きくなり、5分間煮沸すると、ほとんどの農薬が他の処理方法と比べて大幅に減少しました。
最も削減効果があったのはピラクロストロビンに対する5分間の処理で、この研究で行われた全ての農薬中で最高の減少(92.9%、PF=0.07)を示しました。
一方、シプロジニルは沸騰処理によっても大きくは減少しませんでした。(42.8%、PF=0.57)
注目すべきはピレスロイド系のアルファ-シペルメトリン、デルタメトリン、ラムダ-シハロトリンの3種類の殺虫剤で、残存量が増加して、それぞれPF=1.02、1.32、1.70と1を超える処理係数が記録されたことです。その理由として筆者らは、沸騰処理中にイチゴから水分が蒸発するため、これらの農薬がイチゴ体内中に濃縮された可能性を指摘しています。(Amvrazi、2011)同様の結果を、(Rasmusssenら、2003)がリンゴでの農薬除去実験で報告しました。
熱処理による残留農薬の消失は、熱の影響による分解、植物組織への農薬の強力な吸着、農薬が水に溶けだすことによる影響が考えられます。加熱を伴うプロセスは、揮発、加水分解または他の形態の分解を増加させ、残留レベルを低下させる可能性があります。(Hollandら、1994)
まとめ〜実験結果
イチゴ中の16種類の残留農薬の除去における超音波処理と沸騰操作と水道水とオゾン水での洗浄という4通りの処理において、その有効性の比較実験を行いました。
実験結果は、いずれの処理においても1、2、5分間の処理後に16種類の残留農薬の濃度変化が観察され、おおむね減少傾向のあることが確認されました。すべての手順で、処理時間を延長した方が残留農薬の削減に大きな影響を与えています。
16種類の農薬のそれぞれ4通りの手順で3段階の処理時間という、総計192通りの実験条件での全ての農薬の処理係数(PF)が測定され、その範囲は0.07〜1.76でした。
水道水とオゾン水で洗浄すると、生のイチゴに含まれる残留農薬が大幅に除去されましたが、とくにオゾン水の削減効果が大きなものでした。ピレスロイド類(アルファ-シペルメトリン、デルタメトリン、ラムダ-シハロトリン)を除いた残りの残留農薬の除去には沸騰が効果的。超音波洗浄は、研究対象のすべての化合物の残留物を完全に除去するための最も効果的な手順でした。
これらの処理による農薬削減効果の原因について、研究された農薬の水溶性、極性、浸透メカニズムの観点から説明が加えられました。
この研究結果は、超音波、沸騰処理を加えた水処理(オゾン水を含む)が家庭および産業の両方の条件下で、イチゴに付着するからいくつかの残留農薬を部分的に除去するのに有用であることを示しました。
特に期待できるのは、オゾン水を超音波処理する方法ですが、残念ながらこの研究では、このような複合的な実験は行われていません。沸騰水での処理が除菌には効果的ではあるものの、実際に野菜に適用した場合に品質を大きく損傷する可能性があります。その点、オゾン水を超音波処理の合わせ技は効果的と推測される上に、処理対象野菜の品質への大きな悪影響の懸念はあまり考えられません。今後、オゾン水と超音波処理を組み合わせた、除染実験が行われることが期待されます。
この論文は、イチゴから残留農薬を、水技術を使って除去することに対する初めてのポジテイブな結果を提供したものです。得られたデータは、従来からあるデータベースの不十分な部分を補完し、イチゴの農薬汚染リスクの評価に役立つと考えられます。
食品安全性の危険性を明示する必要性が高まっているため、オゾンの有効性に関するこのような研究は、今後ますます必要となるでしょう
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