インドの研究室がまとめた国際誌のレビュー論文をもとにオゾン療法を考えてみる
オゾンやオゾン療法に関する論文はたくさん存在しますが、論文とひとくちにいっても研究論文とレビュー論文があります。各論文の違いやインドの研究室がまとめた国際誌のレビュー論文にある抄録内容の日本語訳を付けながら解説していきます。
オゾンとは
オゾン(O₃)とは酸素(O₂)の同位体で、酸素にもう一つOがくっついた化学式O₃で表されます。
オゾンは発生器で容易に発生でき、抗菌・抗ウイルス効果を示し、すばやく空気中の酸素に戻ることができるため、除菌と消毒ができる地球にやさしい抗菌物質として注目されています。
一般家庭での除菌・抗菌目的での使用に加えて、オゾンは医療現場でオゾン療法(Ozone therapy)として使用されます。
特に細菌感染やウイルスの感染に効果を示し、抗生物質に対して耐性を持つ菌に対しても使用できるため、医学界からも注目されています。
オゾン療法
今回はオゾン療法に関するレビュー論文をみなさんと一緒に読みながら、オゾン療法が今どういった理解をなされているのかを見ていきたいと思います。
まず、レビュー論文に関して簡単に説明させていただきます。
論文は研究論文とレビュー論文に大別され、研究論文は新しいことを研究によって発見した論文です。
一方レビュー論文はこれまでの研究(先行研究)を取りまとめ、その研究領域での大まかな主張(学説)をそれぞれ記述した論文です。
なので、新しい研究領域に踏み込む際はまずレビュー論文に目を通すことをお薦めします。
さて、今回オゾン療法に関してのレビュー論文として、こちら(インドの研究室が2011年にまとめた国際誌のレビュー論文)をあげました。
J Nat Sci Biol Med. 2011 Ozone therapy: A clinical review
オゾン療法に関して英語的にも読みやすい、レビュー論文です。
論文を読むにあたって、最初に目を通すべきはAbstract(抄録)です。
抄録は筆者らの言いたいことをまとめている項目で抄録さえ読めば本文を読まなくても大筋は掴むことができるようになっています。
以下、抄録内容の日本語訳です。
19世紀中頃に発見されたオゾンガスは非常に不安定な構造をした3つの酸素原子からなる分子です。
オゾンは危険な効果もありますが、研究者は治療効果があると考えています。
オゾン療法は1世紀以上使用され、熱心に研究されています。
オゾン療法の効果は明らかで、安定しており、安全で副作用は最低限に保つことができています。
医療現場でのオゾンは感染防御と疾患の治療に用いられます。
オゾンが効果を示すメカニズムは細菌やウイルス、カビ、酵母、原生動物の不活性化、酸素代謝の刺激、免疫システムの活性化とされています。
医療現場でのオゾンの気体状態は一般的ではなく、それゆえ安全なオゾンガスの使用は特別な応用が必要です。
身近な応用として、外傷に対しての経皮性オゾンガス浴は最も実践的な方法で知られていて、たとえば低圧下で使用でき、オゾンの気化を抑えることができます。
オゾン水は歯科領域での使用がよく知られており、スプレーとて使われます。
病気の治療としてオゾンは感染した傷口や循環系の疾患、加齢症状、加齢黄斑変性、ウイルス感染、関節リウマチ、癌、そしてSARSやAIDSに用いられます。
出典:J Nat Sci Biol Med. 2011 Ozone therapy: A clinical review
オゾン療法に関して、概要は理解いただけましたでしょうか。
オゾン療法の応用範囲から医療現場での課題、その解決策、簡単な歴史までが非常にコンパクトにまとまっています。
ただ、抄録という場所での記述は鵜呑みにしてはいけない部分があります。
なぜなら、抄録での文章は一般的に参考・引用文献がありません。
結果として筆者の言いたいことの概要が簡潔に記述されますが、どのレベルの真実かの見極めが難しいのです。
そこでより気になった箇所は本文にしっかりと目を向ける必要があります。
彼らは本文中では次の7つの項目でオゾン療法の関連研究をまとめています。
1.オゾン療法の歴史(HISTORY OF OZONE THERAPY)
2.SARSとオゾン(SARS AND OZONE)
3.メカニズムとアクション(MECHANISM OF ACTION)
4.治療試験 (CLINICAL TRIALS)
5.オゾン療法の優位性(ADVANTAGE OF OZONE THERAPY)
6.オゾン療法の非優位性(DISADVANTAGES OF OZONE THERAPY)
7.近年の研究の進展(RECENT DEVELOPMENT)
ここでは抄録の内容も踏まえながら、オゾン療法をより詳細に説明するためにオゾン療法の優位性と近年の研究の進展の2つのセクションを紹介したいと思います。
オゾン療法の優位性
オゾンによる糖尿病合併症の抑制
糖尿病合併症は体内の酸化ストレスが関与するとされ、オゾンは抗酸化システムを活性化し、血糖値のレベルに影響をおよぼすことがわかっています。
オゾンはスーパーオキシドジスムターゼという酵素を活性化することによって有機過酸化物を正常化し、酸化ストレスの発生を防ぎます。
Hazucha MJ, Bates DV, Bromberg PA. Mechanism of action of ozone on the human lung. J Appl Physiol. 1989;6
7:1535–41. [PubMed] [Google Scholar]
Martínez-Sánchez G, Al-Dalain SM, Menéndez S, Re L, Giuliani A, Candelario-Jalil E, et al. Therapeutic efficacy of o
zone in patients with diabetic foot. Eur J Pharmacol. 2005;523:151–61. [PubMed] [Google Scholar]
オゾンによるHIVウイルスの不活性化
オゾンは試験管内でHIVを不活性化し、この反応が濃度依存的であることもわかっています。
HIVを不活性化するオゾンの濃度は細胞への毒性がありません。
この不活性化はHIVのp24というコア蛋白質を減少させることによります。
Carpendale MT, Freeberg JK. Ozone inactivates HIV at noncytotoxic concentrations. Anitiviral Res. 1991;16:281
–92. [PubMed] [Google Scholar]
オゾンによる免疫系の向上
オゾンはサイトカインの分泌を増やすことで免疫系のはたらきをよくすることも知られています。
Bocci V. Ozonization of blood for the therapy of viral diseases and immunodeficiencies: A hypothesis. Med Hypoth
esis. 1992;39:30–4. [PubMed] [Google Scholar]
オゾンによる抗菌・防カビ効果
試験管内の研究では、オゾンはアシネトバクター、クロストリジウム・ディフィシレ菌とメチシリン抵抗性ブドウ球菌の濃度を減少させることが知られているため、感染防御のためにオゾンが用いられます。
Sharma M, Hudson JB. Ozone gas is an effective and practical antibacterial agent. Am J Infect Control. 2008;3
6:559–63. [PubMed] [Google Scholar]
酸素とオゾンの混合物はカリウムやアコニチンによる不整脈の発生を遅延させることができることが動物実験で示されています。
近年の研究の進展(RECENTDEVELOPMENT)
オゾンによる神経痛への治療
外科的神経損傷による神経因性疼痛モデルである神経枝結紮損傷を用いたマウス実験の結果によると、皮下へのオゾン注入は神経因性疼痛型の行動を減少させました。
このオゾンの作用のメカニズムは未だ明らかではありませんが、オゾンが異痛症の発症と維持に関連する遺伝子発現を制御に重要なはたらきを示すからだと考えられています。
Fuccio C, Luongo C, Capodanno P, Giordano C, Scafuro MA, Siniscalco D, et al. A single subcutaneous injection o
f ozone prevents allodynia and decreases the over-expression of pro-inflammatory caspases in the orbito-frontal c
ortex of neuropathic mice. Eur J Pharmacol. 2008;603:42–9. [PubMed] [Google Scholar]
論文読解方法まとめ
いま、オゾン療法に関するレビュー論文を和訳しながらオゾン療法に関して紹介させていただきました。
こと論文の読解となるとまずは抄録(Abstract)に目を通し、興味がある本文に目を通すことが重要になります。
本文を読む際は参考・引用文献にまで注意を払うことが求められます。
特に重要な箇所は引用文献の本文・データまでしっかりと目を通し、主張が正しいかを確認するべきです。
今回私は引用文献に関しては抄録程度しか確認していませんが、そういう意識で論文と向き合うことが必要なことは今回みなさんも覚えていただけますと幸いです。