オゾンが細菌とウイルスの両方に効果がある理由

なぜオゾンは細菌にもウイルスにも効果があるのかというと、それは一つはオゾンが酸化物質であり、活性酸素を介して細胞に効果を及ぼすからです。本記事では、「細菌とウイルスの違い」「細菌学ことはじめ」「ウイルス学ことはじめ」などの話を交えながらできる限り簡単に解説し、分かりやすくまとめたいと思います。

抗菌・抗ウイルス効果図

オゾン(O3)とは酸素(O2)の同位体で、酸素にもう一つOがくっついた化学式O3で表されます。

オゾンは発生器で容易に発生でき、抗菌・抗ウイルス効果を示し、すばやく空気中の酸素に戻ることができるため、除菌と消毒ができる地球にやさしい抗菌物質として注目されています。

オゾン水とはオゾンが溶けこんだ水です。オゾン水のオゾンは酸化によって除菌した後に水に戻ることができるので、こちらも人体への害を考えずに遣うことができる消毒・除菌薬として利用されています。

ウイルスイメージ画像

さて、ここで消毒と除菌、抗菌というコトバに少し着目してみたいと思います。消毒とは「毒を消す」と書き、その文字の通り毒一般に効果を表すと考えられます。

一方除菌と抗菌というコトバは「菌を除く、菌に抗う」ことを意味します。さて、ここで菌とは文字通り細菌のことです。

つまり除菌、抗菌とは細菌に対してのみ使うコトバで、ウイルスに対して除菌、抗菌や殺菌というコトバは使わないのです。

菌とウイルスは生物学的に明確に異なり、細菌学とウイルス学というそれぞれ別々の学問領域にまとめられているため、このコトバは厳密に使い分ける必要があるのです。

それでは細菌とウイルスの違いはどういうところでしょうか。

エルヴィン・シュレーディンガー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

一番の細菌とウイルスの違いは生物であるか生物でないかです。細菌は生物でウイルスは生物ではありません。

さて、次は生物とはなにかに迫りたいと思います。少しでも生物学に造詣がある方は「What is life」というシュレディンガーの著書をご存じではないでしょうか。

ときの物理学で最も難解であるとされていた量子物理学の分野でノーベル賞を受賞し、名実ともに一番の物理学者であったシュレディンガーがこれからの時代は生物学であると主張した本です。

この著書の中でシュレディンガーは「生物は負のエントロピーを食べて生きている」としています。エントロピーとは熱力学的な乱雑度を表す指標で、この文脈の場合、生物は生まれながらにしてエントロピーが増大していくことを意味しています。

そして、生物はエントロピーの増大を抑えるために生物固有の何らかの方法を用いて負のエントロピーを体内(細胞内)に取り入れることによってエントロピーの増大を抑えているとシュレディンガーは表現しています。

生物とはなにかの定義に戻ります。シュレディンガーの定義に則ると生物はエントロピーの増大を自発的に抑えることができるものであると言い換えることができます。

つまり、その個体自身で活動ができるかどうかが生物としての境界線であると考えるわけです。この定義は現在でも生物か否かを決定する定義の重要事項となっています。

細菌とウイルスの場合、細菌は栄養のある培地に撒くと自発的に活動することが可能です。しかしながら、ウイルスの場合、宿となる細胞がなければどのようにしてもウイルス単体で活動することができません。

つまり、上記の定義に則ると細菌は生物でウイルスは生物ではないということができるわけです。

細菌とウイルスをごっちゃにした論述がいかに生物学的におかしいかご理解いただけましたでしょうか。

関連して、抗生物質というものがありますが、もちろんこちらは細菌に対してしか効果を示しません。抗生物質はantibioticsの翻訳後で、antiは「抗う」という意味の接頭語でbioticsは「生命の」という意味があります。

つまり、抗生物質は生物に対してのものであり、ウイルスには全く効果を示さないということになります。以上のような生物と無生物の違いに興味を持たれた方はシュレディンガーのWhat is lifeや福岡伸行さんの「生物と無生物のあいだ」をお読みになると、より深く詳細な議論がなされているのでオススメです。

研究の様子

前項では細菌とウイルスがどれほど異なるかを簡単に説明させていただきました。しかし、「細菌学」や「ウイルス学」というだけあって細菌やウイルスだけでも様々な分類があり、多様性に富んでいます。この章では細菌に関して簡単に構造と分類を紹介させていただきたいと思います。

まず細菌は生物なので、生物として分類されます。その際、生物の分類としては個体がどのような細胞から成り立つか(単細胞か多細胞か)が最も大きな分類になるのですが、細菌は単細胞生物に分類されます。

また、細菌は核膜を持たない原核生物に分類され、哺乳類などの真核生物とは一線を画しています。しかし細菌の細胞自体は哺乳類の一つ一つの細胞と似ていて基本的な構造物(オルガネラ)はどちらも共通しています。

大きく異なる点は細胞の形と細胞壁の存在で、この2つは細菌をさらに分類する上でも非常に重要になってきます。

まず細胞の形に着目します。細菌は大きくわけて3つの細胞の形をとります。丸い形の球菌、竿上の形の桿菌とらせん状の形のらせん菌で、それぞれ代表例をあげると、球菌はブドウ球菌、桿菌は大腸菌、らせん菌は梅毒トレポネーマがよく知られているところで
す。

こうした多様性を持った形で分類される細菌はさらに細胞壁の構成成分によっても分類されます。詳細は割愛しますが、グラム染色という染色手法があり、こちらに対しての反応からそれぞれグラム陽性、グラム陰性として分類されます。

グラム染色による細菌の分類は非常に歴史が深く1800年代から用いられていたとされています。一般にグラム陰性菌の方が人体に対して毒性が強いとされ、ちなみにブドウ球菌はグラム陽性で、梅毒トレポネーマはグラム陰性です。

グラム染色による細菌の分類は専門家の間ではかなり一般的な分類で、wikipediaでも細菌の説明では一行目に記されていたりします。ブドウ球菌の場合、グラム陽性球菌と書かれています。

ウイルスイメージ画像

ウイルスの分類も非常に多様性に富んでおり、簡単に別記事に記述させていただきましたのでそちらを踏まえて解説させていただきたいと思います。

ウイルスはゲノムとカプシド蛋白質でビリオンと言われる構造単位をつくり、ものによってはエンベロープといわれる膜をもちます。

ゲノムは真核生物の場合、DNAが遺伝物質ですが、ウイルスのゲノムはRNAのものもあり、本数も一本鎖、二本鎖と様々です。カプシド蛋白質は形が非常にキレイな正二十面体のものやウイルス独自の特徴的な形のものがあります。

例えばHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の場合、エンベロープをもつ一本鎖のRNAウイルスでカプシドは特徴的な形をしています。

ここでウイルス学にもう一歩踏み込み、HIVを例にRNAウイルスがどのように宿主細胞に取り込まれ、増殖するかを見ていきます。HIVは症状としては最終的に後天性免疫不全症候群を発症し、様々な感染症(例えば日和見感染)により死に至る病であることが知られています。

その理由はHIVがヘルパーT細胞を宿主細胞とし、個体のヘルパーT細胞を壊してしまうからです。ヘルパーT細胞はヒトの免疫機能を司っている細胞の一つで、ヘルパーT細胞が働かなくなるとヒトの免疫機能は崩壊してしまいます。

ではどのようにHIVはヘルパーT細胞を破壊していくのでしょうか。HIVはヘルパーT細胞外のCD4という蛋白質を目印に細胞内に侵入します。侵入したHIVは逆転写酵素という酵素をつかってゲノムRNAからDNAを合成つくります。

そこからさらに作ったDNAをインテグラーゼという酵素をつかって宿主ヒトゲノムDNAに組み込み、ヘルパーT細胞からHIVウイルスが生成されるようになります。

そしてHIVウイルスをつくることを余儀なくされたヘルパーT細胞は本来の機能を失っていき、細胞死に向かいます。

ウイルスイメージ画像

長くウイルスと細菌の違いに関して説明させていただきましたが、結論はオゾンは活性酸素を発生させ、ウイルスや細菌の構成物質
を破壊するため、ウイルスでも細菌でもどちらでもはたらくということです。

ただ、本記事をお読みいただいた方はご理解いただけると思いますが、オゾンによる消毒・殺菌効果は一様ではありません。たとえばウイルスではエンベロープをもたないものの方が消毒効果を示しやすいことが示唆されています。

このように今後さらに研究が進むとより詳細にウイルス学、細菌学の分類に則ったオゾンによる消毒・殺菌効果が記述できることと思います。

ただ、2019年現在のところはオゾンの効果には活性酸素が重要であることは覚えておいていただけたらと思います。

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